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飛騨「スーパーカミオカンデ」からノーベル賞2人目 地元民の祝い幕、4年越し日の目

4年越しの思いが詰まった祝いの懸垂幕を前に笑顔の田口由加子さん

4年越しの思いが詰まった祝いの懸垂幕を前に笑顔の田口由加子さん

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 神岡町公民館(飛騨市神岡町)に10月7日、梶田隆章・東京大学宇宙線研究所長のノーベル物理学賞受賞を祝う懸垂幕が掲げられた。

出番を待つ「もう1本のノーベル賞祝い幕」

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 スウェーデン王立科学アカデミーは10月6日、2015年のノーベル物理学賞授賞者を発表した。梶田さんの受賞業績は「ニュートリノに質量があることを示すニュートリノ振動の発見」。同発見は1998年6月5日、高山市で開かれた国際学術会議で研究成果が発表され、国内外の研究者から大きな注目を集めていた。授賞式は12月10日、ストックホルムで行われる。

 「ニュートリノ」は、宇宙空間に存在する素粒子の一つ。検出が極めて困難な物体であるため、これまで質量の有無は謎とされてきた。大学で「地球物理学」を専攻していたという地元男性の話によると、ニュートリノに質量があるということは「端的に言って、宇宙空間には終わりがある(有限)ということ。宇宙は無限に広がっているという定説を根底から覆す有力な裏付け証拠」という。

 受賞のきっかけとなるデータを観測した「スーパーカミオカンデ」は、東京大学宇宙線研究所が1995年、神岡鉱山跡(飛騨市神岡町)の地下約1000メートルに建設した巨大実験装置。

 スーパーカミオカンデが生み出したノーベル物理学賞受賞者は、2002年の小柴昌俊さんに次ぎ梶田さんで2人目。同施設の研究者たちとの交流人口が多い神岡町では現在、町を挙げてのお祝いムードに包まれている。

 この日、公民館のロビーに掲げられた長さ10メートル、幅90センチの懸垂幕は、廃線鉄道アトラクション「レールマウンテンバイク」の管理運営を手掛けるNPO法人「飛騨・神岡 町づくりネットワーク」(同町東雲)が2011年9月に製作した物。

 同NPO事務局次長の田口由加子さんは「4年前のノーベル賞発表前のある日、事務室で休憩中に専務理事の山口正一さんと、今年のノーベル賞の日本人受賞者は誰になるかという話で盛り上がった」と振り返る。

 2人は、ノーベル賞最有力候補と目されながら2008年に66歳でこの世を去った物理学者・戸塚洋二さんに思いをはせながら、現在神岡で研究している物理学者で小柴さんに次ぐノーベル賞候補の名を挙げるうちに、「間違いなくいつかノーベル賞をとる人たちだ。ひょっとしたら今年ではないか」と色めき立ち、「地元民として一番にお祝いしたい。発表があってから祝い幕を作っていては間に合わなくなる」と急きょ幕に書く文言やデザインを練り、地元の印刷業者に大慌てで発注したという。

 幕は2人が考える最有力候補の研究者2人分の2本を作った。うち1本が梶田さんだった。「当時は、レールマウンテンバイク事業が観光協会からNPOに移管したばかりで、製作資金に余裕がなかったため、仕方なく紙製になった」と田口さん。

 「まるで自分のことのように、ノーベル賞のお祝いであんなことやこんなことをしたいと話す山口さんのキラキラした顔が今でも忘れられない。あの時は、よもや4年間も(幕が)塩漬けになろうとは思いもせず興奮していた」と話す。

 結局その年に日本人受賞者の発表はなく、幕は事務室の荷物置き場にあるスチール棚の上に置かれ、それから毎年、ノーベル賞発表シーズンになると、幕の存在を思い出しては落胆に暮れしばらくして忘れを繰り返してきたという。4年の歳月を経て、丸めた幕の表面は黄色く変色していた。

 梶田さんノーベル賞受賞の第一報は富山県内で買い物中、携帯のニュースで知ったという田口さん。直後に山口さんから「(幕は)まだあるな。明日の朝一番で公民館にかけよう」との連絡が入った。

 田口さんは「幕を開ける時は、字を間違えて印刷していたらどうしようと少し緊張した。現場で幕をつるしてみたら、高さを測らず勢い余って作ったためNPO団体の表記が床に隠れてしまったが、まあ愛嬌(笑)。ようやく待ちに待った日が来てうれしい」と笑顔を見せる。

 同日、神岡商工会議所でも同専務理事の和仁邦雄さんが「2年ほど前に確信して作った」という梶田さん受賞の祝い幕を掲げた。神岡振興事務所でも急ぎ作った懸垂幕を外に掲げ、地元の保育園児42人がお祝いに駆け付けた。谷口功所長は園児らに「みんなもしっかり勉強して、神岡の研究所に入ろう」と呼び掛けた。

 「田舎の山奥で、ノーベル賞発表の季節になるとみんながソワソワしだす町も全国にそうそうない。神岡を離れた人から『カミオカンデの名を外で聞くたびに心躍る』と聞くのも楽しい」と田口さん。「人の多さだけが町の活気ではない。宇宙物理学研究者の方々には地元民が元気になるきっかけをいつもいただいている。今回の梶田先生のノーベル賞受賞でもらった元気も、今後町が活気づくチャンスに生かしていければ」と話す。

 同NPOの事務室では現在も、残る1本のノーベル賞祝い幕が来たる日を待ち続けている。

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