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高山で「震災前の風景」水彩画展-画家・松井大門さん、「私は忘れない」

絵を見に来た地元の買い物客と談笑する松井さん(左)

絵を見に来た地元の買い物客と談笑する松井さん(左)

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 高山の農産物販売施設「飛騨国府特選館あじか」(高山市国府町)で6 月21日、「私は忘れない ふるさと東北の宝物、かけがえのない風景」水彩画原画展が始まった。

会場で販売している絵はがきと日めくり

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 下呂市萩原町出身で富山県在住の画家・松井大門さんが開く同展。昨年5月の岐阜県下呂市開催を皮切りに、富山県内、福島県郡山市、宮城県仙台市、同登米市、同石巻市、岩手県盛岡市、同釜石市などを巡回し、今回で12カ所目。

 岩手県、宮城県、福島県を中心に、東日本大震災が起きる前まではごくありふれた日常だった東北地方の風景をテーマに、松井さんがこれまで描きためた水彩画97点から原画38点を展示する。会場には、農村、漁村、民家、歴史ある建造物、飲み屋横丁、駅前の商店街や街角の交差点など、水彩画独特の淡いタッチで描かれた「今は無き」東北の景色が並ぶ。

 震災当時、大門さんは絵画教室で生徒に絵を教えていたという。「めったに揺れない富山県で震度3。何事かと思った。テレビをつければ、にわかには信じがたい光景が次々と映し出されていった」と振り返る。

 「すぐに駆け付けて、誰か助けたかった。だが、貧乏絵描きの悲しさ。ボランティアにすぐさま行けるようなお金もなかった。手元にあるわずかな金品を寄付することしかできなかった」。

 「絵描きにできることは何か」――悶々(もんもん)とした日々に襲われ続けるうちに、意を決したという松井さんは震災から8カ月後の11月、東北の地にたどり着いた。

 「避難所や仮設住宅に顔を出しながら、3週間かけて各地を見て回った。屋根の上に乗っかった船、ありえない形で転がっている家や車…あえて不謹慎を承知で言わせてもらえば、絵描きにとってかっこうの題材。だが何度見ても、絵を描きたいという気持ちが全く起きなかった」。そんな時、仮設住宅に住む人たちから「絵描きさんなら、昔当たり前にあったその辺の風景を描けないか」との声をよく耳にして、激しく心を揺さぶられたという。

 「絵を描くために必要な手掛かりは写真しかなかった。だが、普段暮らしていて周りにいつもある景色なんて、まず写真に撮らない。加えて、津波に流され写真そのものが全くない状況。そこで、かつてこの地を訪れた観光客ならと思い、自分のブログを使って全国に呼び掛けた」。

 松井さんのもとにはこれまで、約500枚の画像が寄せられているという。現在もその数を伸ばしている。「やはり県外の人からが圧倒的に多い。その中から厳選し、写真に忠実に1枚でも多く絵を描きたい。今後も続ける」。

 「私が絵を描きながら切実に感じさせられたのは、何気ない風景が、何気ない日常が、いかに大切な宝物であるかということ」と松井さん。

 「今、新たな人生のスタートを切ったところ」と話す松井さんの夢は、現在19万人におよぶとも言われる仮設住に暮らす被災者の全世帯に、自分の描いた東北の風景画日めくりカレンダーを無料で配ることだ。昨年の同展スタート時からの目標で、これまで400世帯には届けたという。

 「まだまだ全然。これから、これから。でも、もう還暦だからたくさん動いて早くしないとまずいかな(笑)。元気なら年齢は関係ないとも思うけどね。自分には、お金はないけど絵がある。だから、この展覧会は場所にこだわらず、できるだけ多く開いて絵はがきや画集や日めくりを買ってもらい、増刷と旅の資金を捻出し、一つでも多くの日めくりを被災地に届けたい」と笑顔を見せる。

 販売価格は、「絵の上に日付が書いてあるだけなのでずっと使える」という日めくりカレンダー(全3種=各30ページ、『福島・宮城』編、『岩手・宮城・青森・秋田』編、『風と大地によせて』=以上、2,625円)、ポストカード(全80種、1枚=100円)、東北復興支援ポストカードセット(8枚入り=1,050円)、詩画集「風と大地によせて」2,500円)。

 会場ではこの日、足を止めた人たちが松井さんの説明を聞きながら、一つ、また一つと絵はがきやカレンダーを買い求め、そのほとんどが「被災地の人のために、体に気をつけて頑張って」と、売り値以上の金額を手渡していた。中には「うちの所でも展覧会開いてください」と申し出る人も。

 松井さんは「当展を始めてより確信するのは、温かい人とのご縁がつながって、助け合うことで人は生かされているとの思い」と話す。同展を開かせてくれる所があればぜひ声を掛けてほしいという。「水彩の原画は役目を終えたら、全て絵のあった土地に差し上げたい」とも。

 「一番の気掛かりは、今年も東北へ行ったが、はっきり言って今も被災中ということ。がれきだってまだまだたくさんあるし、復興も悲しいほど進んでいない。それなのに、世間では震災が風化しかかっている。でも私は絶対に忘れない。地道に展覧会活動を続けていきたい」と力を込める。

 開催時間は8時~16時。入場無料。今月24日まで。同展についての詳しい情報は、松井さんのブログ「遙かなる明日へ~画家松井大門の七転び八起き~」で確認できる。

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