食べる 暮らす・働く 学ぶ・知る

飛騨で縄文人の食調査実験「木の実の水漬け」-首都大学東京と共同研究

山水路を使い「木の実の水漬け」実験を行う山田教授ら研究チーム(ナチュールみやがわで)

山水路を使い「木の実の水漬け」実験を行う山田教授ら研究チーム(ナチュールみやがわで)

  • 0

  •  

 飛騨市教育委員会が5月、首都大学東京大学院(東京都八王子市)と共同で行った縄文人の食生活に関する考古学調査実験「木の実の水漬け」の研究成果を発表した。

木の実の水漬け実験装置

[広告]

 昨年8月~12月にかけて、同大学院人文科学研究科の山田昌久教授が中心となり「ふるさと山荘 ナチュールみやがわ」(飛騨市宮川町)で行った同実験は今回が初めて。「縄文人は採取した木の実を水に漬けて殺虫処理を行っていた」とする仮説を前提に、「最適な水漬け期間」を考察するのが目的。

 山田教授は飛騨市宮川町で約20年間、「実験考古学」と呼ばれる復元観察の実践的手法を通じて飛騨山峡の人類誌調査を行っている。飛騨市ではこれまで、木の実を伴った縄文期の遺構が同町西忍の「宮ノ前遺跡」と同町塩屋の「島遺跡」で見つかっているという。

 実験にあたり研究チームでは、木の実の可食量を減少させ食味を落とす原因の虫害は、水漬けすることで殺虫効果は得られる一方、長期間水中に放置すればするほどデンプン質の流出と腐食が進むと推測。そのため、試料を「水漬け用」と「乾燥用」に分別し個体の具合を比較観察した。

 実験は、山からの沢水を引き込む水場を現地に再現し、9月に採取したクリの実を50個ずつ入れた2袋1セットの試料を数セット用意。10月~12月の3カ月間、2週間ごとに計6回、12週間後までのクリの様子をウェットとドライでそれぞれ調べた。

 その結果、6週間目を境に水漬け試料は虫の生存がゼロに。反して、乾燥試料では6週間が最も虫食いの個体数が多くなった。水による腐食は8週間後から数値が止まった。以上の事から「縄文人が把握していた最適な木の実の水漬け期間は6週間ではないか」と導き出した。

 山田教授は「今回は水漬け木の実の食用ボーダーラインを知る上で一定の収穫があったが、虫害の多い栽培種だった可能性もあるので、縄文人が常に採集し虫害も少なかっただろう野生種のヤマグリでも検証する必要がある。今後は、多種のクリやほかの地域とも比較しながら実験を繰り返し、縄文人の木の実利用の実態に迫りたい」と話す。

 教育委員会スタッフは「一連の研究は『自然との共生』がテーマ。数十年前までは地元で大切にされてきた生活習慣や暮らしの知恵も、戦後からの経済環境により大きく変化した。現在各地で見直されつつある自然と人間の関わり合いを今一度よく知るきっかけになれば」と期待を寄せる。

エリア一覧
北海道・東北
関東
東京23区
東京・多摩
中部
近畿
中国・四国
九州
海外
セレクト
動画ニュース