
飛騨市図書館(飛騨市古川町本町2)1階で8月27日、朗読会「官能小説朗読ライブ」が行われた。
毎月第4土曜の夜に行っている「おとなの時間」企画の一環。同館の図書司書3人が読み手となり、館内所蔵の「官能的な小説」を朗読する試みは今回が初めて。
会場には市内外から男女合わせて約70人が集まり、都竹淳也飛騨市長も駆け付けた。用意したソファ席は開演前に満席となり、急きょ追加の椅子席も設けられる盛況ぶりを見せた。
読み手の3人はこの日、それぞれ自前の浴衣姿で登場。一番手の堀夏美さんは「短編小説H」(徳間書店)から姫野カオルコ著「正調・H物語」、二番手の村田萌さんは「溺レる」(文藝春秋)から川上弘美著「可哀相」、トリを務めた西倉幸子館長は谷崎潤一郎著「刺青」を朗読した。
来場者たちはセルフサービスのホットコーヒーを片手に固唾(かたず)を飲みながら、きぬ擦れの音さえ聞こえる静寂に包まれた館内で、情感たっぷりに読み上げられる司書たちの熱のこもった朗読に耳をそばだてた。
朗読会を終え、堀さんは「笑える要素のある作品を選んだため、クスリと笑いの起きる空気を期待していたが、意外にも皆さま物音一つ立てず真剣に聞いてくださるという新鮮な空気感を味わった。ついに一線を越えてしまった。これから何でもできる気がしている」と笑顔を見せる。
村田さんは「遠くは三重県や愛知県から来てくださった人もいて驚いた。読んでいる最中は緊張でサウナ状態だったが、無事に役目を全うできてホッとしている」と胸をなで下ろす。
女性参加者の一人は「会場が一体どんな空気になるのかと、興味津々で参加したが、いい意味で思っていた空気と違った。朗読中は日本の、飛騨の、自由と平和のありがたさをしみじみとかみしめながら聴いていた。バラエティーに富んだ日本の官能表現は文化水準の高さの裏返し。これまで色眼鏡で見ていた自分の視野の狭さをちょっと反省した」と話す。
男性参加者の一人は「誰かに本を読んでもらい、情景をイメージするのは子どものころに絵本を読んでもらって以来。どこか懐かしい感傷にひたった。新しい音楽に出合った気分にも似ている。まさに『おとなの時間』の名に違わぬイベントだった」と振り返る。
都竹市長は「朗読会として質の高い内容だった。純粋に面白いと思える企画にチャレンジしてくれたスタッフと、通俗的な常識にとらわれず前向きに評価してくれた教育委員会にはあっぱれの一言。誇りに思う。これからもどんどん自由な発想でやりたいことがやれる環境作りをバックアップしていきたい」とエールを送る。
西倉館長は「選書は最後の最後まで悩んだが、やはりここは外せないと、文豪作品を選んだ。司書の仕事に就いて10年以上になるが、官能を目当てに図書館内を巡ったのは初めての経験。新しい扉を開けてしまった実感とともに、図書館の懐の深さをあらためて感じた。市民の図書館なので、市民に楽しんでもらえる面白企画をこれからもいろいろ考えていきたい」と意欲を見せる。
館内では現在、今回の企画に関連するお薦め図書コーナーを設けている。
開館時間は9時~20時(日曜は17時まで)。月曜・最終金曜休館。