
飛騨地域を中心に9月から、体験型観光プログラム「旅ジョブ」企画がスタートした。運営は「旅ジョブ」(飛騨市古川町大野町)。
旅行者にさまざまな職業体験プランを提案し、人と仕事と風土に触れることで各地域の新たなファン獲得につなげる同企画。共に同じ大学を卒業した級友という飛騨市古川町の松場慎吾さんと東京都の藤田雄也さんが今年7月、観光コンテンツ事業を専門に手掛ける新会社を設立し運営に乗り出した。
松場さんは「旅先で、軽い作業体験に物足りなさを感じている人や、ありきたりの観光スポット巡りはもう飽きたという人は多いと思う。自分もその一人」と話す。
「高校卒業から都市部に出て生活を送ってきたが、30歳の節目を迎え故郷に帰ってきた理由は、一度離れてみてようやく分かった地元の人や仕事の魅力を多くの人に知ってもらい、地域経済の活性につなげたいと思ったから。都市と地方は対立関係でなく共存していける」と松場さん。両者の間に現実としてある経済格差をビジネスの力で小さくできないか、藤田さんと日々考えているという。
旅ジョブでは、参加者が半日~1日中、客側でなくもてなし側に立って専業者と共に現場で仕事を体験する。「旅人と地元住民が非日常空間の中で、その人の仕事に掛ける誇りや熱意、気苦労などを共有することで心がつながり、インパクトのある旅の思い出になる。今後、この企画事業を軌道に乗せて全国展開していきたい」と意気込む。
この日は、松場さんが元務めていた会社の同僚で東京在住のフランス人男性ドゥビル・フローレントさんが「庭師」に挑戦した。藍染めの上下に手甲・地下たびという姿に身を固めたドゥビルさんは、造園業「植賢」社長の林賢司さん指導の下、飛騨市古川町内にある推定樹齢150年以上というマツの庭木の剪定(せんてい)作業を一緒に行った。
「マツの手入れは庭師の花形で、難易度も最高レベル。素人がうかつに手を出して失敗すると二度と修復が効かなくなることもあり、庭師修業でも最終段階までマツだけは絶対に触らせてもらえない。今回は庭の持ち主のご厚意もあり、普通ではまずあり得ないシチュエーションが実現した」と林さん。
日本に住んで8年目になるというドゥビルさんは「美しい様式美や古い物を長く大切にする日本文化が大好きで興味が尽きない。何百年もかけて観賞用の樹木を丁寧に育てる文化はうちの地元(パリ近郊)にはない。今日は、これまでどこを探してもプチ体験できる入り口のなかった庭師の世界を知ることができてうれしい」と話す。
剪定(せんてい)バサミを手に脚立に上り、林さんから「これは切る枝、こっちは絶対に切ってはいけない枝」と手ほどきをうけながら、初めは「全部同じに見える」と困惑していたドゥビルさんも、次第に目が慣れてきた様子で「先生、こっちもやりますか」と和気あいあいと会話を交わしながら、「いい香りがいっぱいする」と楽しそうに作業に取り組んでいた。
ほかにも、一見無造作に見えて意図的に配置が計算されている庭石の話、コケを愛(め)でる心、庭師で一番大切なのは実は後始末の掃除であることなどを学んだ。ドゥビルさんは「知らないことだらけで有意義な時間を過ごせた。東京に帰ったら庭木市に行きたい。盆栽を始めてみようかな」と笑顔を見せていた。
体験料はプログラムごとに異なり、1人=4,800円~1万5,000円。現在、東海・飛騨エリアと関東エリアで計10コンテンツを用意する。ラインアップは次の通り。以下、タイトル「○○で旅ジョブ」(開催地、受け入れ先または人)。
東海エリア=「飛騨の庭師、植賢」(飛騨市古川町、林賢司さん)、「200年の歴史を刻む酒蔵」(高山市上三之町、船坂酒造店)、「ネイチャーガイド」「沢登りガイド」(下呂市小坂町、NPO法人飛騨小坂200滝)、「おしゃれクラフト工房」(高山市、かめいち堂)、「観光地の隠れ家カフェ」(飛騨市古川町、壱之町珈琲店)、「飛騨の匠」(飛騨市古川町、匠工房 住寿男さん)。
関東エリア=「Blues Rapper(ブルース・ラッパー)」(東京・下北沢、DAGFORCEさん)、「元モデル・カメラマン」(関東近郊、Tsukasaさん)、「ジュエリーデザイナー」(東京・六本木、Shinku’s (シンクス) 早河拓時さん)。
詳細はホームページで確認できる。