高山の市民団体「結（ゆう）ねっと」が2月11日、市販のディーゼル車をベースに「軽油と天ぷら油のハイブリッドカー」を作るワークショップ「天ぷら油で車を走らせよう」を開いた。

サラダ油による新型ディーゼル始動実験の様子

　「もったいない」をコンセプトに活動を展開する同団体ではこれまで、飲食店や食品加工場などから集めた廃植物油を精製して軽油と同等に使えるバイオディーゼル燃料を作り、農機や発電機を動かすワークショップを開いてきた。「植物油燃料車（通称・天ぷらカー）」製作は今回が初めて。

　同団体代表の田堀文範さんは「近ごろの石油燃料価格高騰による生活への圧迫感がきっかけ。地元の友人が乗る天ぷらカーを見て自分も欲しくなった。ディーゼルエンジンはもともと、ピーナツ油で稼働するよう開発設計されているので、100％植物油を使えば故障の心配もない。車はもちろん陸運局への申請登録で道路走行が可能」と話す。

　「日本では、ディーゼル車は有害な排気ガスをまき散らし地球温暖化の原因を作る悪の権化みたいな印象がついているが、それは燃料次第。植物由来の燃料は、油に溶け込んでいる二酸化炭素（CO2） が燃えて元の空気中に戻るだけ（カーボンニュートラル）なので、実は環境に一番やさしい。天ぷらカーのマフラーから出る排気ガスの匂いは、まさに家で揚げ物をした時のあの匂い」。

　「構造も、ちょっとした車の知識と工具さえあれば意外なほど簡単に作れる。産業廃棄物として厄介者扱いされている廃油がただ同然で手に入り、余すことなく有効利用できるのも大きな魅力」とも。

　当日は30代男性を中心に高山市や飛騨市から10人が参加した。講師には、天ぷらカーの仕組みに詳しい「バイオクリーン長野」（長野県長野市）の小出博善さんと「満月屋」（和歌山県海南市）の岩本拓也さんを招き、製作の手順や作業の注意点などを学んだ。

　ベース車両は、走行距離30万キロの中古ディーゼル車「フォルクスワーゲン・ゴルフ3CLディーゼル」を使った。製作経費は、車両代金と車検費用を除き、部品代、工賃、登録費用で計18万円。

　新たに使用できるようになった燃料はSVO（ストレート・ベジタブル・オイル＝未使用の植物油）とWVO（ウエィスト・ベジタブル・オイル＝使用済み植物油）の2つ。メンテナンスの手間は、「質の良い植物油の調達」「回収した廃油のろ過作業」「定期的なフィルター交換（国内流通品）」の3点。

　ハイブリッド化の理由は、冬場の寒冷地では軽油でエンジンを始動し粘性の高い植物油をラジエーター液で温める必要があるため。給油は車内のスイッチ一つで自在に供給タンクの切り替えができ、緊急時は軽油と植物油の両方で燃料調達が可能になるのも利点の一つという。

　講師の岩本さんによると、1リッター当たりの燃費は軽油に比べ平均1割～2割減だが、ヨーロッパ製の一部車種ではハイブリッド化で逆に燃費が伸びたという報告例も。エンジン出力は発熱量が低いため多少落ちるが、高速道路の安定走行下においては軽油との差はさほどないという。

　会場ではこのほか、国内最新型のディーゼルエンジンを搭載した「マツダ・スカイアクティブCX-5」所有者本人の申し出により、サラダ油でエンジン始動を試みる珍しい実験も行われた。心配そうに皆が見守る中、少し温めた賞味期限切れのサラダ油をエンジン本体に直接入れ、キーを回したところ無事始動。何事もなく走る車の姿に驚嘆の声が上がった。

　講師の2人は「これまで国内で1例、同じことをして無事動いたといううわさを聞いたことはあったが実際に見たのは初めて。理論上は可能だがあくまで故障は自己責任の危険な実験なので、そんな勇者に出会うことはまずないだろうと思っていた。良い経験をさせてくれた所有者に感謝」と興奮気味に話していた。

　車の所有者は「新型ディーゼルエンジンもSVOで動くということは、天ぷらハイブリッド化できる可能性があるということ。ただし、WVOがどこまで通用するかは未知の領域。ろ過の精度やNG条件は何かなど興味は尽きないが、この先も長く愛車と付き合っていけそうと分かりうれしい」と笑顔を見せる。

　田堀さんは「かつて一般家庭の家計を支え日本の経済成長に大きく貢献したにもかかわらず、お金にならないと判断され大衆から遠ざけられてしまった感のあるディーゼルエンジンだが、今の時代にこそふさわしい経済的で完成された機械だと思っている。今後、課題を一つずつクリアして、誰でも無料で給油できる廃油ステーションを飛騨の街角に設置するのが夢」と期待を膨らませる。