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「伝統木造建築物の魅力と可能性」-高山で伝統構法テーマに講演会

国重文「松本家住宅」(高山市上川原町)の梁(はり)天井

国重文「松本家住宅」(高山市上川原町)の梁(はり)天井

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 高山市民文化会館(高山市昭和町)で10月26日、日本の伝統建築構法を研究する建築家らによる活動報告&講演会「伝統木造建築物の魅力と可能性を語る」が開催される。主催は岐阜県建築士会・岐阜地域貢献活動センター。

「E-ディフェンス」による実大振動台実験

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 日本の伝統構法の良さを広く一般に知ってもらおうと開く講演会は今回が初めて。伝統構法とは、「筋交いを使わない、金物補強を行わない、基礎にアンカーボルトを使わない、人口乾燥でなく天然乾燥の木材を用いる」などの特徴を持つ伝統的木造建築物の建築方法。

 当日は、「伝統的構法の設計法作成および性能検証実験」検討委員会設計法部会・主査の斉藤幸雄さんが、一般来場者にも分かりやすいよう実際の耐震実験映像などを交えた講演会を行うほか、岐阜県内の各種団体が伝統的建築物に関する調査研究の活動報告会を行う。

 活動報告会は次の通り。「石積シシ垣の保存および環境整備」=NPO法人「自然・生活共生会」(岐阜県関市)、「高山城二の丸は信長公居館の写しか」=NPO法人「歴史文化建造物等保存会・トラスト岐阜」(岐阜市)、「高山独自の伝統構法マニュアル作成のための町屋・農村家屋調査報告(仮)」=飛騨高山伝統構法木造建築物研究会(高山市)。

 主催事務局の田村嘉伸さんは「明治期に西欧から持ち込まれた柱の間に筋交いを持たせる建築技術は『在来構法』と呼ばれる一方、日本古来の伝統構法は、近代建築の進出と共に構造上危険な建築技術と見なされ衰退の一途をたどってきた」と話す。

 太平洋戦争後、高度な技術を有する優秀な大工や職人の数が激減したことも追い打ちをかけた。政府の方針で戦後復興のため大量に安く早く簡単にできる在来構法が基準とされ、1950(昭和25)年制定の建築基準法では伝統構法に大幅な制約が掛けられた。そのため、伝統木造建築物の立体的な構造研究は今日までほとんど行われず、教育機関でも講義は皆無。伝統構法に関わる技術はほぼ現場大工の経験則に基づき継承されてきたという。

 「見直されるきっかけとなったのは阪神・淡路大震災。以降、震災が起こる度に、伝統構法で建てられた木造家屋は倒壊せず損傷も軽微という実例が多数報告された。これは、外からの力に筋交いなど特定の部材の力で対抗する西欧流の剛構造に対し、柱全体で力を吸収し受け流す日本流の柔構造の方が地震に強いという証拠」と田村さん。

 「文化財保護のため、伝統的木造建築物に筋交いやアンカーを入れ耐震補強工事を行ったという話を聞くことがあるが、構造的にバランスが悪い上、部材が負荷に耐えられなかった場合、致命的なダメージを負うことになるのでかえって危険」と危惧する。

 「ただし、近年見直しが図られている伝統構法も構造力学的に未解明な部分が多く耐震性能の把握が難しいため、設計法はいまだに確立されていないのが現状」とも。現在、現行法の改正案提出を視野に入れた伝統構法の研究が西日本を中心に急速に進められているという。

 2010年4月には関西圏の建築研究者や実務者らが集まり、国交省事業の一環として3カ年計画の「伝統的構法の設計法作成および性能検証実験」検討委員会を発足。昨年9月、総仕上げとして兵庫県三木市にある世界最大規模の実大三次元震動破壊実験装置「E-ディフェンス」で、日本建築史上初となる「伝統構法家屋の実大振動台実験」を行なった。

 一連の取り組みを受け、近年、地方でも地元の伝統構法を科学的に調査研究する機運が高まっているとみられるが、実務者団体が自治体などと連携して取り組む地域はまだ少ない。全国では現在、京都、金沢、飛騨高山の3カ所だけだという。

 田村さんは「自然に逆らわず良い物を長く使う考え方を根本とする伝統木造建築物は、究極のエコ住宅。飛騨地域にはまだ少なからず現存している。世界に誇れる日本古来の技術を後世に伝えるためにも、価値や存在を多くの人に知ってもらいたい」と来場を呼び掛ける。

 開催時間は13時~16時(12時30分開場)。入場無料。問い合わせは同事務局(TEL 080-5125-6837)まで。

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